ケース別の感染予防
2018.04.17

妊婦は風疹、水痘、梅毒、トキソプラズマなどの感染症に注意!

妊娠中に妊婦さんが感染症にかかると、それがおなかの赤ちゃんに感染することがあり、これを母子感染といいます。ここでは、母子感染する可能性のある感染症の解説と、感染しないための予防方法を紹介していきます。

妊娠中は自分とは異なる血液型や遺伝子を持つ赤ちゃんを体内に宿すため、その赤ちゃんを攻撃してしまわないよう、お母さんのからだの免疫機能が下がると考えられています[1][2]。免疫機能が下がると感染症にかかりやすくなるのですが、妊娠中にかかると赤ちゃんにも感染してしまう感染症があります。妊婦さんが気をつけたい感染症について解説していきます。

妊婦検診で検査できる感染症

お母さんから赤ちゃんにウイルスや細菌などの病原体が感染することを母子感染といいます。妊娠する前からお母さんがもともとその病原体をもっている場合もありますし、妊娠中に感染する場合もあります。以下にあげるものは、母子感染の注意が必要な感染症として妊婦検診で検査できるものです。ただし、実際の検査実施については医療機関の方針や妊婦さんと赤ちゃんの経過状況に基づいた主治医の判断によって異なる場合があります[3]。

妊娠初期に受ける検査

風疹
妊娠中に、お母さんが初めて風疹ウイルスに感染した場合、胎盤を通して赤ちゃんに感染(経胎盤感染)することがあり、これを先天性風疹症候群といいます。視力や聴力、心臓などに影響が出ることがあります。
なお、妊婦検診で行う風疹の抗体検査では抗体の有無や量をHI法やEIA法と呼ばれる測定方法で示されますが、多くはHI法で測定されています。HI法の数値の見方は以下を参考にしてください[4]。
  • 8倍未満:陰性(風疹の免疫を保有していない)
  • 8倍・16倍:風疹の免疫を持っているが、感染予防には不十分であり注意が必要
  • 32倍以上:風しんの感染予防に十分な免疫を保有している

※256倍以上の数値が出た場合、最近風疹に感染した可能性がないか医師が問診などをすることもあります。

梅毒
経胎盤感染によって赤ちゃんに感染し、流産や早産、死産の原因になったり、赤ちゃんの神経や骨などに異常をきたす先天梅毒を発症したりすることがあります。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
出産時に赤ちゃんが産道を通る際に感染(産道感染)するほか、経胎盤感染や母乳を通して感染(母乳感染)することもあります。
HIVが赤ちゃんに感染すると、免疫機能が正常にはたらかなくなり、それによってさまざまな感染症にかかったり、悪性腫瘍、脳症などの症状が出たりする後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症します。
B型肝炎・C型肝炎
赤ちゃんに感染しても症状が出ないことが多いのですが、将来、肝炎や肝硬変、肝がんなどの病気を発症するリスクがあります。
B型肝炎が母子感染した場合は、赤ちゃんが生まれた直後(できるだけ早く、遅くとも48時間以内)にワクチンを接種します。通常は生後2か月以降に定期接種でワクチン接種を行います。

妊娠30週頃までに受ける検査

HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス-1型)
赤ちゃんへの感染はおもに母乳感染です。感染したとしても症状が出ないことが多いのですが、ATL(成人T 細胞白血病)を中高年期以降に発症する可能性があります。そのほか、HAM(HTLV-1関連脊髄症)という神経の病気を発症するケースもあります。
妊婦検診の検査で陽性が出てもすぐに感染しているという診断になるわけではなく、保険適応の確認検査が行われることになります[5]。
性器クラミジア感染症
性行為時に感染しますが、女性は感染しても症状が出ないことが多いため、気付かないまま妊娠するケースがあります。赤ちゃんへの感染経路は出産時の産道感染で、結膜炎や肺炎を起こすことがあります。
性器クラミジア感染症は血液検査のみでは診断が難しいため、子宮頚管の分泌物や子宮頚部をこすり取って採取したものを検査します。

妊娠24週~35週までの間に受ける検査

B群溶血性レンサ球菌
赤ちゃんへの感染経路は出産時の産道感染で、赤ちゃんに肺炎、髄膜炎、敗血症などの重症感染症を起こすことがあります。
検査方法は、膣内と肛門内をこすり取ったもの(検体)を培養して行います。

TORCH症候群について

経胎盤感染し発症すると重たい症状を引き起こすことから注意が必要な5つの感染症の頭文字を取ってTORCH症候群と呼ばれています。

トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)
トキソプラズマ原虫という寄生虫が感染して起こります。妊婦さんがトキソプラズマに初感染すると網脈絡膜炎、水頭症、脳内石灰化、精神遅延などを発症することがあります。出生時に無症状でも、その後成人するまでの間に症状が出てくることもあります。
トキソプラズマ原虫は加熱が不十分な肉類や生乳、ネコのふん便に含まれていることがあります。ネコを飼っている方はキスなどのスキンシップやトイレ掃除を避けましょう。掃除に関しては避けられない場合もあると思いますので、その際はマスクや手袋を着用し、トイレ掃除が終わったあとは手洗いを行ってください[6]。
梅毒(Other agents)、風疹(Rubella)
「妊婦検診で検査できる感染症」の項目を参照してください。
サイトメガロウイルス感染症(Cytomegalovirus)
子どもの唾液や尿に多く含まれるウイルスです。日本では成人の多くは免疫を持っていますが、妊娠中に初感染し、経胎盤感染で赤ちゃんにも感染すると、低出生体重、小頭症、脳内石灰化、難聴、脈絡網膜炎などの症状が出る場合があります。
子どもと接触することがある妊婦さんは、子どもの唾液や尿に触れたときは、よく手を洗ったり、食器や歯ブラシの共用や子どもの食べ残しを食べたりしないなどを心がけましょう。
単純ヘルペス(Herpes simplex)
単純ヘルペスウイルスの感染によって顔や性器に水ぶくれ状の皮膚症状(水疱)や潰瘍ができる感染症です。症状が出ずに感染を自覚しないこともあります。赤ちゃんに感染するときは産道感染となり、新生児ヘルペスを発症する場合があることから帝王切開が必要となることもあります。

その他

水痘(水ぼうそう)
子どもの頃にかかったことがある人も多いと思いますが、妊娠中に初感染した場合、流産のリスクが高まったり、ウイルスが赤ちゃんに感染すると低体重出生、腕や脚の形成不全、脳炎、小頭症などの先天性水痘症候群(CVS)を発症したりすることもあります。また、妊娠後期に水痘肺炎を起こすと重症化することもあり[7]、妊娠中は水痘の予防接種ができないため感染に気をつけましょう。
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
片側あるいは両側の耳下腺(耳の下の唾液腺)の腫れ、ものを飲み込んだりしたときの痛み、発熱を伴う感染症です。
妊娠中はおたふくかぜの予防接種ができません。赤ちゃんの奇形などは報告されていませんが、妊娠3か月期までの妊婦さんが感染すると流産の原因となることもあります[8]。
麻疹(はしか)
妊娠中は麻疹の予防接種ができないことと、妊娠中に麻疹に感染すると流産や早産を起こすリスクが高まるため気をつけておきましょう。
ヒトパルボウイルスB19感染症(伝染性紅斑:りんご病)
妊婦さんが感染した場合赤ちゃんに経胎盤感染することがあります。赤ちゃんの全身に水分が溜まってむくみが起こったり、重度の貧血に陥り心不全を起こしたりするなど、流産や死産のリスクが高まります。
ワクチンはないため注意したい感染症です。
リステリア症
リステリア菌によって起こる食中毒ですが、日本での発症は少ない感染症です。加熱殺菌していないナチュラルチーズ、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモン等から食中毒を起こしますので妊娠中はなるべくこれらを避けたり、加熱したりすることで予防できます。

感染症の基本的な予防方法

妊娠中は免疫機能が下がること、また、免疫機能が下がることによって予防接種が受けられない感染症があるために、妊娠していないときよりも気をつけておきたいものではありますが、基本的な予防方法を心がけることで感染リスクを下げることができます。

  • マスクの着用
  • 手洗い・うがいの習慣化
  • 人ごみや体調の良くない人にはなるべく近づかない
  • 人の手がよく触れる場所(ドアノブ、テーブル、スイッチなど)の除菌
  • 空気の入れ替え

感染症を予防する除菌方法を『感染症を予防する除菌方法|殺菌・滅菌・抗菌との違い』で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。

ご自身とおなかの赤ちゃんを守るために、日ごろからこれらを意識するようにしましょう。

参考文献

  1. [1]三宅研究室(自己免疫・神経免疫研究室). "性ホルモンと免疫" 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 免疫研究部. https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_men/column2.html(参照2018-03-23)
  2. [2]国立成育医療研究センター. "妊娠と薬情報センター:インフルエンザ情報(医療関係者向け)" 国立成育医療研究センター. https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/h1n1.html(参照2018-03-23)
  3. [3]厚生労働省. "妊婦検診を受けましょう" 厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken13/dl/02.pdf(参照2018-03-23)
  4. [4]厚生労働省. "予防接種が推奨される風しん抗体価について(HI法)" 厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/dl/140425_1.pdf(参照2018-03-23)
  5. [5]板橋 家頭夫. "HTLV-1母子感染予防対策マニュアル" 厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/06.pdf(参照2018-03-23)
  6. [6]国立感染症研究所. "妊婦さんおよび妊娠を希望されている方へ" 国立感染症研究所. https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/2211-disease-based/ta/toxoplasma/para/3010-toxo-pregnant.html(参照2018-03-23)
  7. [7]国立感染症研究所. "成人水痘-妊婦の水痘などを中心に" 国立感染症研究所. https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2256-iasr/related-articles/related-articles-404/4010-dj4044.html(参照2018-03-23)
  8. [8]国立感染症研究所. "おたふくかぜワクチンに関するファクトシート" 国立感染症研究所. http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bybc.pdf(参照2018-03-23)

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