ウイルスを知る
2018.04.27

ウイルスが人に感染する理由とは?答えはウイルスの生存戦略にあった!

感染症の原因の1つであるウイルスとはどういうものなのでしょうか。ウイルスによる感染症の予防のために、ウイルスが人に感染して人体に悪影響をおよぼす理由とそのメカニズムをわかりやすく解説します。

監修医師

監修 内科医 公衆衛生医師  成田亜希子 先生

注射器をもっている医師の手元

世の中にはウイルスが原因となって起こるさまざまな感染症があります。ウイルスは人に感染するもの、動物に感染するもの、さらには細菌に感染するタイプのものまでいるほど、なにかに感染して増殖しようとします。このようなウイルスの特徴や生存戦略を知っておくことはウイルスによる感染症の予防に役立ちます。一緒に見ていきましょう。

ウイルスはなぜ人に感染するのか?

ウイルスは、細菌やカビなどと同じ微生物です。大きさは1μm以下で、微生物の中で最も小さく、構造も他の微生物とは異なります。ウイルスはDNAやRNAといった遺伝子とそれを守るためのたんぱく質を持つのみです。そのため、増殖に必要な遺伝情報を持っていても、それを増幅させて繁殖する能力はないのです。そこで、ウイルスは増殖するために人や動物、細菌などに住み着きます。では、ウイルスはどのように生命体に住み着いて、増殖するのでしょうか。

ウイルスは単体では生きられない

ウイルスは自分で増殖することはできません。ウイルスが世代を超えて生き抜くには他の生命体に住みついて、その生命体を乗っ取るしかないのです。

ウイルスには、人だけに感染するものもあれば、人にも動物にも感染するものがあります。特定のウイルスが感染するかは、生命体の細胞にそのウイルスに対するレセプターがあるかどうかで決まります。レセプターに吸着したウイルスは、寄生先の細胞の中に侵入します。侵入したウイルスは、遺伝子を覆っていたたんぱく質を分解し、遺伝子を細胞の中に放出します。そして、細胞の成分を使い果たすまで新しい遺伝子とたんぱく質を次々と複製し、この2つを合体させてたくさんの新しいウイルスが誕生するのです[1]。

ウイルスの生存戦略

ウイルスは単独では生きられず、必ず他の生命体を乗っ取って増殖します。ウイルスの生存戦略を宇宙船に例えてみましょう。

私たちの細胞を宇宙ステーション、私たちの身体を宇宙空間だとします。宇宙ステーションにはドック(レセプター)があり、ある日、ドック(レセプター)にロボット星人の宇宙船がドッキングします。ロボット星人は大変図々しい奴で、ロボット星人と宇宙船の設計図はあるのに、それらを作り出すのに必要な材料は持っていません。そこで、ロボット星人は宇宙ステーションに無断で侵入し、我が物顔で宇宙ステーション内にある材料を使って、新しいロボット星人と宇宙船を次々に作り出し、宇宙空間に放出しつづけるのです。

そして、宇宙ステーション内のものを全て使い尽くすと、ロボット星人は新しい材料を探して別の宇宙ステーションへ飛んでいくのです。

ここでいうロボット星人とはウイルスの遺伝子のことで、宇宙船はウイルスのたんぱく質のことです。このように、ウイルスは生命体を利用して増殖し、さらに別の生命体に拡大するというタチの悪い戦略を取っているのです。

ウイルスの生存戦略と抗ウイルス薬

インフルエンザウイルスやヘルペスウイルスなど一部のウイルスには抗ウイルス薬が存在します。しかし、抗ウイル薬は開発が難しく、発症してから投与までにタイムリミットが設けられているものもあります。このようにウイルスによる感染症の治療が難しいのは、ウイルスの生存戦略が大きく関わっています。

ウイルスは感染するとすぐに人の細胞の中に入り込んでしまい、ウイルスに感染した『人の細胞』として増殖を繰り返します。このため、ウイルス自体をピンポイントで攻撃する薬を作るのは非常に難しいのです。今現在使用されている抗ウイルス薬は、ウイルス自体を攻撃するのではなく、ウイルスの復元を邪魔して増殖を抑える効果を持つにすぎないのです。

生存戦略が成功しているウイルスと失敗しているウイルス

世の中には数多くのウイルスがありますが、生存戦略が成功しているものと失敗しているものがあります。成功しているウイルスは感染症を大流行させ、失敗しているウイルスは限局した地域でのみ感染症を引き起こします。では、この差はどこにあるのでしょうか。例を挙げて見てみます。

成功しているウイルス

非常に多くのウイルスが増殖して、その原因となる感染症が大流行したものです。

インフルエンザウイルス
インフルエンザは毎年秋から冬の終わりまでに世界各地で大流行します。インフルエンザウイルスには、HAとNAという二種類の糖蛋白があります。HAとNAはそれぞれ16種類と9種類が存在し、その組み合わせを亜型と呼びます。インフルエンザウイルスはこの亜型の変異を繰り返し、毎年少しずつ違う形のウイルスが生まれます。このため、ヒトの免疫機能が対応できず、毎年の大流行が発生するのです[2]。つまり、インフルエンザウイルスは多くの人に感染し、多くのウイルスが複製されますので、生存戦略に成功していると考えられます。

失敗しているウイルス

ウイルス自体の数が少なく、局地的で小規模な流行しか起こさないものです。

エボラウイルス
2014年から2015年にかけて、西アフリカで流行したエボラ出血熱は一万人以上の死者を出し、世界中が厳戒態勢となりました。原因となるエボラウイルスは、感染すれば死に至るものと非常に恐れられています。確かに、エボラウイルスに感染すると、致死率は50%を越えます[3]。しかし、エボラウイルスは西アフリカなどのごく限られた地域にしか存在しません。また、世界的な大流行も起こらないウイルスです。
エボラウイルスは非常に重篤な症状を起こし、短期間の内に半数以上が死亡にいたります。そのため、ウイルスが十分に増殖する時間がなく、発症者は出歩く余裕もないため、不特定多数の人に感染する機会も少ないのです。これらの点で、エボラウイルスは生存戦略に失敗していると言えます。なお、エボラウイルスは日本に存在せず、頭の良くないウイルスなので過度な心配はいりません。

参考文献

  1. [1]島根県感染症情報センター. "インフルエンザウイルスの増殖サイクル" 島根県感染症情報センター. http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/flu/flu_cycle.htm(参照2019-04-13)
  2. [2]厚生労働省. "インフルエンザQ&A" 厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html(参照2018-04-13)
  3. [3]国立感染症研究所 ウイルス第一部/感染症疫学センター. "エボラ出血熱とは" 国立感染症研究所. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/vhf/ebora/392-encyclopedia/342-ebora-intro.html_(参照2018-04-13)

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